羽のように軽く触れた陸遜の唇は、ほんのりと湿り気を帯びて柔らかく、
こんなに甘い感触なのか、と孫はまるで初めて口付けしたかのような感想を抱いた。
前回無理やり奪われた時には、ただもう抵抗するのに夢中で、
そんな事を気にする余裕など欠片も無かったから、仕方が無いのだが。
(良く考えたら、結構すごい事されたのよね・・・)
あの夜の出来事を改めて思い出し、今になって恥ずかしさが込み上げてくる。
ほんの一瞬しか触れ合わなかった唇が、火のように熱い。
雰囲気に飲まれて、自分から口付けまでしてしまったが・・・。
(どうしよう?いくらなんでも破廉恥だったかしら?)
羞恥心が疼いて、無意識に距離を取ろうとする孫の体を、
それより早く陸遜の腕が抱き寄せた。
「今更・・・逃がしませんよ。」
と余裕の無い囁きが耳に入った途端、
孫の視界を焦点の合わない彼の顔が占領して、再び唇に柔らかな感触が押し当てられた。
何度も何度も啄むような口付けを落とされて、
ゆっくりと体の奥に切ない感覚が積もって行く。
下唇を甘く食まれて、ぞくぞくと首筋を這う震えに思わず彼の夜着を握り締めれば、
それを合図に口付けは深いものへと変化した。
歯列を割って咥内に侵入してきた陸遜の舌が、孫の舌先を誘う様にねっとりと舐め上げる。
彼の動きを真似て、此方からもおずおずと舌を絡めれば、
ぎゅっと閉じた瞼の向こうで、驚いたように息を詰める気配が感じられた。
上顎を喉の奥の方までなぞられて、くん、と子犬のような鼻声が零れる。
合意の上であるという安心感からか、陸遜に以前のような性急さは無かったが、
逆に、一つ一つ反応を確認するような丁寧さが、孫の羞恥をじりじりと煽った。
息苦しさとは別の、甘ったるくて切ない倦怠感に頭がぼうっと痺れる。
すっかり力の入らなくなった膝はがくがくと震え、
陸遜が腰に腕を回して支えてくれなければ、とっくにその場へとへたり込んでいただろう。
既にどちらのものかも分からないほど混ざり合った唾液を、じゅっと吸い上げて、
陸遜の唇が名残惜しげに離れていった。
ほぅっと燃えるような吐息を吐いて、未だ口付けの余韻に溺れる孫の目に、
ごくりと嚥下する陸遜の喉仏が酷く卑猥に映る。
彼の長くしなやかな指が濡れた唇を乱暴に拭う様を、
ぽうっと見惚れていると、それに気付いた陸遜が艶めかしい笑みを浮かべた。
胸中を見透かされたような気がして、慌てて目を伏せれば、
彼の手が頬へと伸びてきて、そっちに気を取られている内に反対側の頬がちゅっと音を立てる。
ついでに、きっちり結んでいたはずの腰帯がしゅるりと呆気なく床に落ちた。
あまりの早業に、どこから驚いて良いのかも分からず、
とりあえず肩からずり落ちかけた夜着の前を慌てて掻き合わせれば、
その隙をついて、ひょいっと体を抱えあげられる。
「は、伯言待って!降ろしてちょうだい!」
不安定な浮遊感と、気恥ずかしい体勢に思わず悲鳴を上げると、
陸遜の形の良い唇が嬉しそうに弧を描き、答えの変わりに額へと口付けを落とした。
そのまま、乱暴では無いけれど性急に寝台へ降ろされて、
慌てて身を起こそうとした孫の上に、熱の塊のような体が覆いかぶさって来る。
こちらの首筋に鼻先を埋めて、様と満足そうに名前を呼ぶ陸遜の柔らかい猫毛を撫でながら、
けれど孫は釈然としない気持ちを持て余した。
随分と手際が良すぎやしないか?
5年間貴女一筋だったと、そう言った陸遜の言葉を信じないわけでは無い。
けれど、彼はずっと辺境を転戦してきたのだ。
戦地において、血の猛りを鎮めるのに女を買う事は極めて当たり前の行為であるし、
まして妻と乞われる以前の事を、孫がとやかく言えるはずも無い。
そう理解している一方で、
このまま寛容な振りをして彼を受け入れる事に抵抗を感じているのも確かだ。
散々迷った末、今の甘い雰囲気を壊してまで聞くべきでは無いと訴える心の声を押し切って、
孫は疑問を口に上らせた。
「あの・・・伯言。貴方、随分その・・・手馴れているような気がするのだけど・・・。」
と、出来るだけ何でも無い風を装って言葉を濁せば、
ちゅっちゅっと耳元に口付けを繰り返していた陸遜が、がばっと勢い良く顔を上げた。
互いの息がかかるほど間近でじっと見つめ返されて、
ああやっぱり言うんじゃ無かったと、後悔しても後の祭り。
気まずい沈黙に、とにかく機嫌を直してもらわねばと、何も思い浮かばない頭でぐるぐる言葉を探していると、
予想に反して、陸遜は恥ずかしそうに苦笑いをした。
「それはその・・・今までずっと、貴方とこうなる事を想って独り寝を過ごしてきましたから。」
いくら男女経験の乏しい孫とて、彼の言葉が具体的にどういう行為を指すのか位の知識はある。
顔に朱を刷きながら、そ、そうですか、と蚊の鳴くような声で返事を返せば、
陸遜も自分で説明しておいて、ほんのり頬を染めた。
「ええっと・・・それに、まだ若輩の私は軍内でも小姓のような立場でしたから、
直属の将に付き従って妓楼に連れて行かれる事も多かったのですよ。
彼等が美姫の妙技に耽溺している間、従者役の私はする事がありませんでしたから、
同じく暇を持て余している娼妓達の話し相手をさせられてたんです。」
もちろん、冷やかし半分に誘われる事もあったが、
まだ十分に幼かった陸遜が、操を立てている相手がいるのだと必死に断れば、
餓鬼のくせに生意気だとからかいながらも、
狡すっからい娼妓達は豊富な知識を無垢な少年の耳に吹き込んだ。
「感謝はしてますよ。未経験な上に無知では、貴女に辛い思いをさせてしまいますからね?」
でも誓って彼女達には指一本触れてません、と豪語する陸遜を見詰め、
孫はけれどちっとも安堵する気になれなかった。
妓楼の女達はきっと皆美しく妖艶で、何より男を悦ばす手管を熟知していただろう。
髪だって、今陸遜が愛おしげに撫でているもっさりと固く太い孫のものと違い、
絹のような極上の手触りだっただろうし、
肌も、浅黒い自分とは比べ物にならないほど、白く透き通るような柔肌だったはずだ。
ならばせめて、陸遜を満足させられるだけの技術があれば良いのだが、
彼の一挙手一投足にいちいち驚いては無様に固まってしまう自分にそんな芸当、出来るわけが無い。
このまま行為を続けても彼を幻滅させてしまうのではないか?
そう思うとどんどん悲観的になってしまって、まるで時間を稼ぐように孫は饒舌になった。
「そ、そんな事言って、実は引く手数多だったのでしょう?伯言は昔から見目麗しかったもの。
美人に言い寄られれば悪い気はしないでしょうし、
もしかしたら一人くらい貴方の御眼鏡に叶う女人が居たかもし・・・・」
早口に捲し立てる彼女の唇は、けれど長い指にそっとなぞられて、
ぴたりと言葉を紡ぐことを止める。
少し黙って下さい、と耳に落とされた囁きに、孫が泣きそうな顔で陸遜を見上げれば、
貴石のように澄んだ彼の瞳の奥に、原始の炎が妖しく揺らめいているのが見えた。
「これでも、かなり我慢しているんです。あまり焦らされると自制がきかなくなります。」
貴女が欲しくて堪らないんだ、という切なげな言葉と共に、
熱く固い感触を太ももへと押し付けられて、孫は赤い顔で黙り込むしかなかった。
細やかな抵抗さえ放棄した孫から、陸遜はやおら身を起こすと、
乱暴に腰帯を解き、夜着もろとも床へと脱ぎ捨てる。
無駄を一切削ぎ落としたしなやかな痩身が灯篭の淡い光の中に浮かび上がり、
孫は目のやり場に困って視線を泳がせた。
尖った肩の輪郭や、胸から腹にかけて綺麗に浮いた筋肉、腰骨の窪みに落ちる影。
どれをとっても女性の丸みを帯びたそれとは懸け離れているというのに、
ゾクリと肌が粟立つほど濃厚な色香を感じるのは何故なのだろう。
急に自分の置かれている立場が現実味を帯びてきて、
今から目の前の男に施されるであろう行為に、
微かな悦びと、それを遥かに上回る恐怖が、心を浸食し始める。
極度の緊張に強張る四肢を叱責して、孫は再び覆いかぶさってきた陸遜の裸の背に震える手を回した。
「・・・怖い、ですか。」
そう尋ねられて、素直に首を縦に振れば、ややあって、
「私も・・・怖いです。」
と少し弱気な返事が返ってくる。
合わさった胸から伝わってくる鼓動の速さが、その言葉を裏打ちしていて、
戦場で命のやり取りさえしている彼が、一体何を怖がるのだろうかと不思議だった。
孫の疑問が視線を通して伝わったのか、抱きしめる陸遜の腕がいっそう強くなる。
「・・・抱いてしまえば、私は貴女を絶対に手放せなくなります。」
失えばきっと狂ってしまう。
そう苦しげに囁かれた告白を、孫は目も眩むような幸福感と共に聞いた。
恐怖が消えたわけじゃない。
緊張が消えたわけじゃない。
それでも、
愛しい愛しいと胸の奥から湧いてくる強い感情が、孫の背中を押した。
慈しむように髪を撫でる彼の手に、自らの指を絡めて握り返し、
孫はなけなしの勇気を振り絞って、覗き込んでくる琥珀の双眸を真っ直ぐに見上げた。
「約束するわ伯言。貴方が望む限り、ずっと傍に居ます。
私が貴方にあげられるものなんてあまりないのでしょうけど、
それでも私の全てを貴方に・・・。」
捧げます、と最後まで言い終わる前に、噛みつくような口付けが降ってくる。
くちゅくちゅと舌が絡み合う卑猥な音の合間を縫って、
陸遜が掠れた切ない声で、好きです、と繰り返した。
何度も何度も角度を変えて咥内を貪られ、しっとりと孫の肌が汗ばみだす。
それを確認するように、耳の後ろに添えられていた右手が頬から首筋を滑って、
かろうじて胸にしがみ付いていた夜着の合わせ目を払い落した。
露わになった全身に容赦の無い視線を感じて、孫は居心地悪く膝頭をすり合わせる。
綺麗ですよ、と欲に濡れた賞賛が耳元に落ちて、
同時に柔らかな膨らみを温かな掌が包み込んだ。
それだけで全身が強張って、我知らず息を飲む。
やわやわと感触を楽しむように胸を揉みしだいては、
「柔らかい・・・気持ち良い・・・」
そう夢見心地に呟く陸遜の顔をまともに見る事が出来ず、
孫はいたたまれない思いでプイと横を向いた。
すると、まるで好都合とでも言わんばかりに、耳の縁をぬるりとした何かが這い上がる。
舐められた、と気付いた時にはもう遅く、
耳たぶを甘く食まれて、あっ、と鼻にかかった嬌声が漏れ出た。
慌てて耳を隠そうと伸ばした手は、
けれど予想済みの陸遜に掴まれて、褥の上に縫いとめられる。
「耳・・・弱いんですね。」
と嬉しそうな声が頬の産毛を撫でて、
ち、違っ、と抗議するより早く唾液に濡れた舌が耳の穴へと捻じ込まれた。
「っあ・・やぁ・・っ・・舐め、ちゃ・・・ぁんっ」
くすぐったいとも、むず痒いとも違う切ない感覚が、ぞくぞくと首筋を走り、
静止するための声も、情けなく蕩ける。
それでも必死に押し留めようと、空いている方の手で陸遜の体を押すのだが、
批難の台詞がやがて意味を為さない嬌声へと変わるまで、彼は執拗に耳を嬲るのを止めなかった。
普段衆目に晒されている部分が、まさかこんな淫靡な行為に使われるなんて、
閨の経験の無い孫に予想出来るわけが無い。
ようやく解放されて、はぁはぁと肩で狂おしく呼吸しながら、
薔薇色に頬を染めた孫が恨みがましく陸遜を睨みつければ、
「そんな色っぽい目をして煽らないで下さい。」
優しく出来なくなってしまう、と茶化すような言葉が返ってくる。
けれど見上げる彼の顔は怖いほどに真剣で、孫は喉まで出かかった憎まれ口を飲み込んだ。
再び首筋に顔を埋めた陸遜に向かって、嘘ばっかり!と胸中で悪態をつきながら、
孫は肌の上を蠢く淫らな舌の感触に、ぎゅうっと下唇を噛んで耐えた。
どんどん温度を上げる濃密な部屋の空気が堪らなく恥ずかしい。
手を何処に置けば良いのか、
どんな顔をすれば良いのか、
それすら分からない。
極度の緊張で固まった体は強張ってばかりいるくせに、
陸遜が触れる度、浅ましく反応を返した。
されるがままの情けない自分を、果たして彼はどう思っているのだろう?
呆れているんじゃないだろうか?
卑屈な疑問は次々に湧いてくるのに、素直に尋ねる勇気は無い。
首から鎖骨を通って胸元まで丁寧に紅い花びらを散らしていた唇が、
不意に胸の頂きを含んで吸い上げたせいで、孫の煩悶はそこで霧散した。
ぁんっと自分でも聞いた事の無い甘ったれた声が勝手に口から零れて、
もう無理だと思うほど紅潮していた顔がなおも熱を増す。
重たい頭を無理やり持ち上げれば、まるで反応を確認するかのように、
陸遜が真摯な目をして、じっと孫の様子を伺っていて。
「・・・はくげんんっ・・・」
羞恥で泣きそうになりながら、舌っ足らずに字を呼べば、
陸遜は微かに目を見開いた後、辛そうに眉根を寄せ、切なげな声で、クソッ、と小さく吐き捨てた。
いつも丁寧な言葉使いの彼からそんな悪態を聞くのは初めてで、
どうして怒るのか分からず困惑する。
謝った方が良いだろうかと、慌てる孫を無視して、
陸遜は先程までの慎重さが嘘のように、胸の頂きへと激しくしゃぶりついた。
「あっ・・あっ!なっ・でっ・・ぁぁんっ」
まるで甘露を舌で転がすように、すっかり固く勃ち上がった蕾を嘗め回されて、
かん高い嬌声が唇の端からひっきり無しに零れ落ちる。
急に激しくなった行為についていけず、
顎のすぐ下で揺れる柔らかな猫毛を掻き回して、拙い抵抗を試みれば、
煩わしげに陸遜の指がもう片方の胸の頂きを柔らかく摘み上げた。
ひゃぅんっと甘い悲鳴と共に、背中が綺麗に反り返る。
そのままぐりぐりと敏感な尖りを指の間で揉み潰されて、
左右両方の先端から、既に潤み始めた下肢に向かって鋭い痺れが走った。
耐え切れないとばかりにくねる孫の華奢な腰を、
遠慮を無くした大きな手が大胆に撫で回し、
もじもじと擦り合わされる太ももを図々しく割り開く。
駄目、待って、と懇願する声を無視し、
長い指がじんじんと痺れを訴える孫の秘所へ強引に潜り込んだ。
恥毛を掻き分け、陸遜がその奥の潤んだ割れ目に指先を含ませた途端、
くちゅっと密やかな水音が鳴って、孫は叫び声を上げたい気分で、腕で顔を覆い隠した。
視界を遮断しても、陸遜が満足そうに笑うのが分かる。
恥知らずの指がゆっくりと割れ目をなぞれば、孫の体は面白いほど顕著に跳ね上がった。
勝手に出てくる淫らな声を、ぎゅっと口を結んで必死に押し留めれば、
ゆっくりと臍の横を下降してきた陸遜の唇が、抗議するように柔らかな脇腹を甘噛みする。
それさえ快感に変換する肌を忌々しく思いながら、
それでも両手で押えて懸命に吐息を飲み込んでいると、
ふいに彼の体が離れ、次の瞬間には両手で太ももの裏を掬い上げられていた。
膝が胸に押し付けられ、強制的に腰が浮く。
普段自分自身でさえ見る事の無い恥部を、陸遜の目の前に突き出すような恰好をさせられて、
孫は猛烈な羞恥に耐え切れず、身を捩って逃げを打つ。
それを阻止するように、すぐさま彼の顔が露わにされた秘所へと伏せられた。
たっぷりと唾液に濡れた舌が敏感な粘膜を舐め上げた途端、
孫の口から今までとは比べ物にならないほど大きな悲鳴が上がった。
「あぁあっ!!あっやぁっ・・・やめっ、汚いからぁぁ!」
ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てながら、柔らかで生暖かい感触が彼女の秘所を蹂躙する。
断続的に体の芯を走り抜ける鋭い快感はあまりに強すぎて、
立膝を立てた足が、堪らないと敷布の上を足掻いた。
契りを結ぶという意味を、孫とて知らぬわけでは無かったが、
知識と、実際の体験とでは、まさに雲泥の差。
今更ながら安易に同意するべきでは無かったと思い知る。
それなのに陸遜は、まるで隠された部分を全て暴きたいかのように、
すでに唾液と彼女自身の蜜とで濡れそぼった花弁を、両の指で押し広げる。
「ぃやぁ・・・もっ、見ないでちょうだ・・・っ」
すんすんと啜り泣くように訴える孫の声が聞こえていないはずはないのだが、
彼は迷う事無く、可哀想なほど赤く勃ち上がった花芽を伸ばした舌先でチロチロと転がした。
まるで神経の束を直接舐められるような強い刺激に、頭の中で火花が散る。
びくびくと痙攣する体は弓なりに反り返り、口からは発情した猫のような甲高い啼き声をだらしなく垂れ流した。
制御出来ず勝手に逃げを打つ腰を、がっしりと片腕で押さえ込んで、
陸遜は悩ましげにひくつく花弁から溢れ出る雫を指に絡め取ると、ゆっくりと最奥に挿し入れた。
これほど潤っているにも関わらず、侵入してきた異物に反応して中がきゅうっと引き絞られる。
ぎゅっと眉根を寄せて違和感に耐える孫へと気遣わしげな視線を送りながらも、
陸遜は躊躇することなく指を推し進めた。
締め付けてくる粘膜を掻き分けて、彼の指が中を探る度、
鈍い痛みと不快な感覚に肌が総毛立ち、嫌な汗が噴き出してくる。
けれどそんな孫に追い討ちをかけるように、容赦なく指の数が増やされた。
もはや視線も合わせてくれなくなった陸遜に、なんで、と呼び掛けた声は、
互いの荒い息に紛れて、空しく掻き消える。
こんなに辛い思いをしているのに、
何度もやめてと頼んだのに、
孫の気持ちを無視し続ける陸遜の態度が怖くて、
年上の矜持でもって堪えていた涙が、
とうとうぽろぽろと眦から溢れ落ちた。
ひっひっとしゃくり上げながら、嗚咽を噛み殺していると、
秘所を解す事に夢中だった陸遜が怪訝そうに顔を上げ、
視線が合った途端、おろおろと狼狽え出す。
おずおずと涙の筋を親指の腹で拭いながら、
陸遜は途方に暮れた情けない顔で孫を覗き見る。
やがて恥じ入るように俯くと、すみません、と小さく謝罪した。
「感じてくれてるのだと思ったら・・・我慢、出来なくなってしまって。
また貴女に酷い事を強いる所でした。」
頬に額に労わるような口付けを落としながら、
もう絶対傷付けないと誓ったのに、と悔恨を紡ぐ陸遜を、
孫は涙の止まった目で見つめ返した。
どんなに冷静に見えたとしても、彼とて初めての行為に変わりは無いのだ。
緊張も恐怖も、そして体を甘く苛む興奮も、
自分と全く同じなのだと分かると、先程までの寂しさが愛おしさに変化する。
今夜はもう止めましょう、と苦しげに身を離そうとする陸遜の腕を掴んで引き留めれば、
彼は心底困った顔で、とても優しくする自信が無いのだと、弱弱しく訴えた。
その首に無理やり腕を回し、力いっぱい引き寄せて、
耳元に、平気だから、と精一杯の誘い文句を囁く。
ほんの少し浮きあがった背中に、陸遜の腕がおそるおそる回されて、
孫は満たされる思いに大きく息を吐いた。
「あの・・・本当に大丈夫ですか?」
無理はしなくても、と心配そうに掛けられる声にこくこくと頷くと、
再び長い指が孫の中へと挿入された。
異物の入る感覚に、どうしても身が竦む。
ぎゅっと目を瞑って必死に怖気を受け流せば、先ほどと同じく指が二本入り込んだ。
柔らかな中の粘膜をばらばらに掻き回され、同時に親指の腹でくにくにと快楽の元である花芽を押し潰されれば、
不快だった異物感が薄れ、変わりにずんと腰が重くなる。
耳を舐められるのとも、乳首を揉み擦られるのとも違う、
体の奥から浸食してくる甘い痺れに、孫の冷えた肌が再び熱を取り戻した。
いつの間にか指が三本に増やされ、潤みを増した秘所がぐじゅぐじゅと水音を立てる。
視線を感じて、うっすらと目を開ければ、
ごくりと生唾を飲む陸遜の、余裕の無い表情が妙に生々しく視界に映り、
同時に体内から指が引き抜かれるのを感じた。
すっかり快感に慣らされた秘所が、ひくひくと物欲しげに収縮を繰り返す。
けれど、すぐさま入口に押し当てられた熱の塊に、孫は怖気づいて思わず腰を引いた。
ちらりと視線を巡らせれば、仄かな灯篭の光に禍々しく怒張した黒い影が浮かび上がっていて、
思わず、絶対無理!と胸中で泣き言を喚く。
恐怖に顔を引き攣らせる孫を見下ろして、
こちらも切羽詰まった表情の陸遜が、それでもじっと彼女の了承を待ってくれている。
ようやっと覚悟を決めた孫が小さく頷けば、返事の代わりに優しい口付けが唇へと落とされて、
それを合図にぐぐっと恐ろしい質量が秘所の入口を割り開いた。
限界まで押し開かれた粘膜からビリビリと鋭い痛みが走って、孫の食いしばった歯の奥から呻き声が漏れる。
脂汗がびっしょりと体を濡らし、ミシミシと柔らかい秘肉が引き裂かれる恐怖に全身が固く強張った。
「痛っ・・ぁ・・・はくげっ・・こわいぃ・・・」
しがみ付いた肩口に堪え切れず爪を立てながら、食いしばった歯の奥から必死に言い募れば、
辛そうに眉根を寄せた陸遜が、慰めるように深く口付けた。
甘く舌を絡められ、体から一瞬力が抜けたのを見計らって、
ずずっとまた腰が進められる。
「ゆっくり、息を吐いて・・・っち、からを・・・抜いて下さいっ」
「そんっな・・・の、むりっ・・よぉっ」
口付けの合間に上擦った声でそう懇願され、孫は情けなく悲鳴を上げる。
それでも、ふーふーと浅い呼吸を繰り返せば、
痛みが少し和らいだ気がして、陸遜も陶酔するようにほぉっと深く溜め息を吐いた。
何度も動きを止めては痛みに慣らすを繰り返し、
ゆっくりと時間をかけて、ようやく全部を中に納めきる。
指とは比べ物にならない質量が体内でどくどくと脈打っているのを、鈍痛と共に感じていると、
痛い、ですよね、と申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
ぼんやりと焦点の合わない目をそちらへ向ければ、
艶めかしく蕩けきった顔の陸遜が、同じように潤んだ瞳でこちらを見下ろしていて。
いつの間にか彼の体もまたじっとりと汗に濡れ、
頬は熱病に侵されているかのように上気し、
半開きの口からは真っ赤な舌がちらちらと覗いている。
唐突に、彼も感じているのだと気が付いて、孫の背筋をゾクリと淫らな震えが走った。
同時に、体内に飲み込んだものをきゅうっと締め付けて、
陸遜の、少女のように瑞々しい唇から、感じ入った吐息が零れ落ちる。
「す、いません。私ばかり気持ちっ・・・良くて。けどもう、これ以上はっ・・・」
そう甘く掠れた声で途切れ途切れに懇願され、
返事を待たず中に含まされた熱の塊が引きずり出された。
信じられない質量がずずっと移動したかと思うと、凄まじい圧迫感を伴って奥へと戻って来る。
その度に焼けつくような痛みが体を襲って、孫は誤魔化すために必死で息を吐いた。
生理的な涙が頬を伝い、口からは苦しげな呻き声ばかりが吐き出される。
遠慮がちな抽送を繰り返しながら、陸遜もなんとか痛みを和らげようと、
動きに合わせて揺れる胸の頂きに舌を這わせた。
途端に、あれほど苦しかった異物感が妙な感覚へと変換され、激しい痛みに切ない痺れが混じる。
初めて孫の口から痛々しい呻き声とは別の、艶を含んだ悲鳴が零れて、
陸遜の口端に笑みが浮かんだ。
急な体の変化に戸惑う孫を置いてけぼりにして、
容赦の無い愛撫が胸へと施され、尖りを甘噛みされるたび、きゅうっと最奥が引き絞られる。
孫の声が甘さを増すにつれ、気遣わしげだった腰の動きは、だんだんと慎みを無くし、
いつの間にか、ガツガツと絡み付く秘肉を突き上げる激しいものに変わっていった。
耳に届くのは肌がぶつかる音と、ぐちゅっじゅぐっと淫らに響く感じている証。
痛みが消えたわけでは無いはずなのに、内壁を擦られる堪らない感触に孫は嫌々と首を振った。
先程まで胸を揉みしだいていた陸遜の手が、身悶える下腹を滑り、
押し開かれた割れ目のすぐ上で蜜に濡れそぼった花芽を容赦なく磨り潰す。
電撃のような快感が足の先から頭のてっぺんまでを駆け抜けて、
とうとう痛みを凌駕した。
「ひぁぁああっ!やぁっ・・だめぇぇっ!!」
ひぃんっと身も世も無く悶え、呂律の回らない口で静止しながらも、
一体何が駄目なのか、孫自身良く分からない。
「はっ・ぅ・・名をっっ、名を呼ばせて下さいっ」
熱に浮かされた声でそう懇願され、訳も分からず頷けば、
涙に滲んだ視界の真ん中で、陸遜が嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
っ、っ、とそれ以外の言葉を忘れたかのように、孫の名を連呼して、
陸遜の怒張が凶悪な動きで最奥の更に奥へと突き立てられる。
激しい抽送に揉みくちゃにされながら、孫も必死に彼の首にしがみ付き、
はくげん、はくげん、と馬鹿みたいに字ばかり呼び続けた。
熱と蜜で蕩けた秘所は逃がすものかときつい収縮を繰り返し、
中で暴れるそれの形をはっきりと伝え、その度にあられもない嬌声が唇から溢れる。
頭の中がジンと白く霞んで、何も考えられない。
どこか高みへと追い上げられる感覚に身を任せれば、
突き上げられる場所からうねりにも似た快感の渦が、膨れ上がって。
「あっ・・・っは、あぁああっ!!」
意識が急激に遠退くのと同時に、
ぎゅううっと中がひと際強く引き絞られ、切なげに眉を寄せた陸遜が息を飲んだ。
「・・・ぁ・・っくぅ!!」
と、ビクビク跳ねる孫の体を強く抱き締めて、
食いしばった唇から堪え切れなかった嬌声を一つ零す。
熱い精が体の奥に何度も吐き出されるのを感じながら、
孫は満ち足りた気持ちで、ゆっくりと倒れてくる陸遜の体を受け止めた。
少し息苦しい重みと、火のように熱い彼の体温が心地良い。
どっどっと伝わってくる互いの鼓動が、
いつの間にやら同じ速さで重なり合って、ツンとわけもなく鼻の奥が痛くなった。
こんなに幸せな気分がこの世に存在するのか。
無防備に身を任せてくれる陸遜が愛おしくて、すりと頬を摺り寄せれば、
名実ともに好い仲となった年下の婚約者は、ちゅうっと孫の唇を啄んだ。
そうして照れ臭そうに笑いながら、
「貴女があんまり可愛い声を上げるから、箍が外れました。」
と、赤面物の台詞をさらりと口にする。
何て事言うんだと顔を顰めて、孫が抵抗するように身を捩れば、
ぴったりと合わさった下肢が少しずれて、隙間からトロリと吐き出された精が零れ落ちる。
そこで初めてまだ彼が中に居る事を思いだし、
今度こそ赤面した孫は、覆いかぶさったままの陸遜の肩を両手で押し退けた。
興奮が冷めてみれば、今の自分の格好はまるで引っくり返された蛙の様ではないか。
「は、伯言!そろそろ、その・・・どいてくれないかしら。」
直接的な言葉を避けつつ、やんわりと抜いてくれるよう頼むと、
肩を押していた手を握り取り、せっせとその指先に口付けしていた陸遜は、
なぜです?と愛くるしく首を傾げた。
「???なぜってそれは・・・。」
「頑張れば夜が明けるまでにあと二回は出来ますよ?」
予想の遥か斜め上を行く回答に、少々混乱した孫はえ?え?と疑問符ばかり繰り返す。
その間にも、ああ、そうか!と勝手に結論を出したらしい陸遜が、
彼女の体を抱き寄せたかと思うと、ぐるんと寝返りを打って体制を入れ替えてしまう。
「こうすれば苦しく無いでしょう?」
反転した視界の真ん中で、重たかったんですね、と笑う端整な顔を見下ろし、
孫は今度こそ青ざめる。
怖い。
このコ本気だ。
「ま、待って伯言、考え直して!だって私、今夜が、は、は、初めてだったのよ?」
「ええ、知ってます。さっきは痛い思いをさせてしまって、すいません。
次はもっと優しくしますから。」
恥を忍んではっきり言葉にすれば、陸遜は申し訳なさそうな表情を浮かべるものの、
不埒な手は明確な意思を持って、孫の背中に走る傷をそろりとなぞり上げた。
皮膚の薄い傷跡からぞわぞわと艶めいた感覚が湧いてくるのを誤魔化しながら、
「そ、それに!明日、周都督の所へ破断の撤回を嘆願しに行ったとしても、
実際に華燭の典を迎えるのはずっと先なのよ?その前に・・や、やや子が出来たら、どうするつもりなの?」
そう現実的な問題を突きつける。
けれど、当の陸遜は柔らかな臀部の感触を掌で楽しみながら、
どうせ夫婦となるのだから構わないでしょう、と事も無げに言い放った。
「むしろ孕めば良い。早く私の子を産んで下さい。」
ねぇ、?と耳元にうっそり囁かれ、孫は顔を真っ赤にしながら目を見開いて彼を凝視する。
そこには、到底そんな破廉恥な事を考えているとは思えない爽やかな笑顔があって。
(やっぱり、私、早まったんじゃないかしら?)
と、先行きの不安を気にしながら、
孫は、しきりに口付けをせがむ夫へと唇を寄せるのだった。
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